「思い出のメロディー」はいつ“私たちのもの”になるのだろう

ということを、昔考えていた。
昔。
たぶん、20代とか30代くらいの頃。
NHKの「思い出のメロディー」が始まったのは1969年で、私とあの番組はほぼ同い年なんだけども、父母が好きだったから私は物心ついた時から毎年のように「思い出のメロディー」を見ていた。
なので私は妙に“懐メロ”に詳しい。
春日八郎さんの「赤いランプの終列車」とか「別れの一本杉」とか、自分が生まれる前に流行った曲をけっこうよく知っている。「上海帰りのリル」とか。


毎年のように「思い出のメロディー」で「自分が生まれる前」もしくは生まれた直後くらいの歌を聴きながら、「今流行っている曲が思い出のメロディーで取り上げられる日って来るんだろうか」と思っていた。


当時喜んで「思い出のメロディー」を見ていた父母は今の私より全然若かった

私が10歳の時、父は42歳で母は36歳である。
今の私より全然若い。
「懐メロ」という言葉には“年寄りの好きな歌”という語感があるけど、当時の二人はまだ“年寄り”ではない。
当時の「思い出のメロディー」でかかっていたのはたぶん昭和一桁から30年代くらいの曲で、父にとっては自分が二十歳くらいまでに流行った曲、母にとっては十代の頃に流行っていた曲、だと思われる。
20~40年前の曲。

今から20年前は平成8年。
アラフィフの私にとっては“平成”はすごい最近のことで、平成に入って流行った歌なんてまだちっとも“懐メロ”じゃない気がするのだが、平成ももう28年なのだ。昭和が遠くなるどころか平成初期もすっかり遠いのである。
1969年当時から見た「40年前」は1929年=昭和4年。
現在から見た「40年前」は1976年=昭和51年。
たぶんキャンディーズあたりが流行っていた。「春一番」が1975年だ。
「今から見て20~40年くらい前の曲をかける」というコンセプトなら今年の「思い出のメロディー」は1976年から1996年あたりの曲になる。メインはきっと80年代。

が、もちろんそうはならなくて、昨日(2016/08/27)の第48回「思い出のメロディー」のメインは……メインは……欽ちゃんだったのかな。
「ハイスクールララバイ」が1981年、「もしも明日が」が1983年。

見事80年代がメインに! 喜べ、俺たちの時代が来たぞ!!!


いや、正直あんま嬉しくなかったです

なんだろう。
百恵ちゃんのVTRとか石野真子ちゃん本人とかゴダイゴとか、ちゃんと「私が子どもだった頃」の歌が出て来て、もう十代も終わりかけ1986年の「愛燦燦」も流れたのですが。
うーん。
むしろ「東京ドドンパ娘」や雪村いづみさんの方が嬉しかった。
子どもの頃「思い出のメロディー」で聞き覚えた歌をまた「思い出のメロディー」で聴ける方が。

私にとって「思い出のメロディー」という番組は「自分が生まれる前に流行っていた素敵な昭和歌謡を聴く番組」であって、中途半端に70年代80年代の曲を流されてもたいして嬉しくないのだなぁ、とここ数年しみじみと実感している。

「演歌」だけではない、J-popでもない、「歌謡曲」華やかなりし頃。


「思い出」の期間はどんどん引き伸ばされる

昨日流れたうちで一番古い曲は「お富さん」だったろうか? 1954年(昭和29年)の曲。あ、雪村いづみさんの「想い出のワルツ」の方が古いのか。1953年。
御年79歳で見事な美声を披露してくださったいづみさん、本当に素晴らしくて、今年も見て良かったなぁと思った。


昭和20年代の曲から昭和60年代の曲まで。番組が始まった当初より「思い出の期間」が10年ほど長くなっている。
私が子どもだった頃楽しそうに「思い出のメロディー」を見ていた母は今70代半ばで、彼女が夕べ番組を見ていたかどうかは定かでないのだけれど、私より年上の元気な高齢者世代の「自分が若かった頃に流行った曲を聞きたい」というニーズがある間は、昭和20年代30年代の曲がちょこちょこ流れ続けることだろう。

番組の公式サイトには“「思い出のメロディー」は、昭和から平成へと時代をこえて日本人に愛されてきた名曲の数々をお届けする音楽番組です。”と書かれている。「上を向いて歩こう」のようなもはや“スタンダード”として親しまれている曲は、オリジナル発売時に子どもだった人――その曲を“自分の思い出”とする人――が一人もいなくなっても、きっと取り上げられ続ける。

この先「思い出のメロディー」がいつまで続いていくかわからないけど、私が「高齢者」になった頃、“あなた達の思い出の曲と言ったらこれでしょ”と「世界に一つだけの花(2003年)」や「LOVEマシーン(1999年)」がかかるのは……うーん、なんかあまり嬉しくない気がする。

やっぱ藤山一郎さんとか聞きたいんですよ、「思い出のメロディー」では。


1931年(昭和6年)の曲。
同世代でも、親が“懐メロ”好きじゃなかった人はきっとあんまり知らないでしょう。うちの旦那さんもきっと知らない。
聞きたきゃ自分でYouTubeで聞けよ、って時代でもある。
思い出の期間はどんどん伸びて、“同じ世代なら誰もが知っている曲”というのがどんどん少なくなっていって。

「思い出のメロディー」は永遠に“私たちのもの”にならないまま違う番組になっていくのではないか。今や「紅白」も半分「思い出のメロディー」みたいなもんだし。